Kaede Higuchi 1st Live "KANA-DERO" を見た話

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刃物のようなライブだった。生配信の終了を告げる画面で停止したモニターを眺めながら最初に出てきた感想がそれだった。

Kaede Higuchi 1st Live "KANA-DERO" をニコニコ動画の生配信で視聴しました。在宅派なので生配信は本当にありがたかった。インターネットは素晴らしい。インターネットが大好き。そこで感じたこと。というより第2部の「命に嫌われている。」を聞いて感じたことなど。

「命に嫌われている。」

二人の死生観の話。二人に言及する時に必ずと言っていいほどの頻度で俎上に上る死生観の対比の話。死ぬことが怖くて死ぬまでにやりたいことをリストアップしている女と生への執着が薄く生きる意味が分からない時があると言っていた女が、初めてのステージに選んだ曲がこれ。その事実が本当にずっしりと重たくて、背筋にぐっと力を入れて姿勢を正さないと押し潰されてしまいそうになる。

いつも楽しそうに顔を上げてこちらをしっかり見て、身体を大きく使って歌う月ノ美兎さんが、ずっと俯きがちだったり目を閉じていたり、たまに横の樋口さんを見るばかりで、要はこっちの方なんて全然見てなくて、息が詰まるような上擦るような声で歌っていて(特に最後の気を付け、着席の挨拶で掃けたシーン。配信の度に聞く定番の挨拶。何度も使っていて喉の使い方も慣れたものだろうに本当に余裕の無さそうな声をしていて)、こんな月ノ美兎さんを見るのは初めてで、どれだけの気持ちを抱えて歌ってくれたのだろうかと思う。

月ノ美兎さんの「ありがとう」が耳の奥にこびり付いてずっと剥がれない。溢れる言葉をぐっと抑えて一つに凝縮したような、アウトロに被せた退場の言葉が頭から離れない。あの言葉が予定調和の台詞なのか彼女が選んだ彼女の言葉なのか、舞台の下にいる(画面越しに見ている)私たちには到底分からなくて、でもそのままで構わないと思った。あの二人は本当のことを知っている。それはとても素敵なことでそれだけで満足だと思った。とはいえ教えてくれるというなら大喜びになってしまうし裏話トーク配信はいつか聞きたい。

カメラワークが非常に良かった。引きと寄りのバランスが絶妙。見たい場所が見たいタイミングで最高のアングルでズームされる。欲しい画を的確に見せてくれる。ここは本当に絶賛の気持ちを使えたかったところ。「一流は客の要望を満足させるものを提供するが、超一流は客の予想を超越した、客が本当に欲しいものを諭すように提供する」という言葉があるがこのカメラワークはそれに近かった。本当に見たい画がここにありました。カメラ担当の方々に深い感謝を。年収十倍になってほしい。

いつか終わりが来る。誰もが頭のどこかで分かっているけれど、分かっているからこそ絶対に口にはしない暗黙の了解、共通の嘘のようなものがある。同じものに同じ熱量を永遠に向けられるほど人間の好奇心はシンプルに出来ていなくて、それを誰もが(おそらく樋口さん自身も)実体験として理解している。飽きてしまったもの、忘れてしまったもの、離れてしまったものが心の隅のジメッとした場所に並べられていて、後ろめたいような目を背けたいような(そして事実目を背けて見ない振りをしている)気持ちを抱えていて、ふとした拍子にそこ目をやってしまって気不味さを覚えたりする。時には感傷に浸ってウェットな気分を味わう道具にしたりする。そこに彼女がくれた「終わりが来てもこの時は "魂" に刻み込んで前に進み続ける」というアンサー。ここでの "魂" が持つコンテクストは一般的なそれとは幾分違って、Vtuberという文化ならではの特殊な重みがある。だからこそ彼女の言葉がじんと胸に染み込むし、通過するのではなく消費するのではなく、刻み込むようにして(つまりは不可逆なかたちを跡に残すようにして)彼女たちのこれからの歩みを見ていきたいという思いを改めて持った。応援するとか推すとか、そういう言葉でなくて刻み込む。魂に刻み込む。命に刻み込む。

最後の手紙の場面。"樋口楓"  "私"  "魂"  とダブルクォーテーションで囲まれた三つの言葉のコンテクストは、少しでも分かっている者から見れば改めて言葉にする必要もないくらいシンプルなもので、それ故に彼女がある種のタブーに寸前まで迫ってまで剥き出しの言葉を綴ってくれたことが理解できる。大成功に終わった1stLiveにも関わらず残る余韻は歓喜、狂乱というものではなく、むしろ無人のホールに長々と尾を引く残響のような、本来ラストLiveで感じるような感傷的なそれで、これが彼女が私たちの魂に刻み込んだものなのかなと思う。

彼女は「次」にまた会おうと言ってくれた。終わりがいつか必ず来るという残酷過ぎる現実を目の前に突き出した彼女から「次」という言葉が出てくるのは、救いのようでありながら、新たな宣告を突きつけられたような、また何かを刻み込まれてしまうのだろうな、という緊張感を覚える。それでもやはり「次」が楽しみでならないし、その時が来るのを心待ちにして「生きて」いたい。

書ききれなかった魅力が本当にまだまだ沢山あって(本当に格好良くてどこか示唆的なオープニングムービー、ゲスト3人とのコラボ曲、いつも通りのようでどこか特別な、それでいてやっぱりいつも通りなトークの空気感、3Dモデルが描出する4人の身体性の違い。膝の使い方もリズムの取り方もみんな少しずつ違う。そこに強烈な彼女たちの "実在" を感じずにはいられない。そしてアンコールの入りに流れる波音…………!!!!)(樋口さんのお水を取る姿が良すぎる。身のこなし、口へ運ぶ動き、全てが本当に格好良い。)何度も見返したい素敵なステージでした。本当にありがとうございました。回数制限無しに繰り返しタイムシフト視聴が可能なネットチケットは1/21の23時59分まで販売中ですよ!!!!!!

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