うんこ!ちんこ!女子小学生のおしっこ!ダンゲロス1969を読め

先日、京極夏彦の「鉄鼠の檻」を読み終えた私は次に何を読むべきか悩んでいた。

順当にいくなら次の「絡新婦の理」を読めばいいのだが、シリーズ最高傑作との評判に少し気後れした。一旦クールダウンしたい。馬鹿げていて、笑えて、インパクトがあって、それでいて読み応えのあるような、そんな本は無いだろうか……!

そんな時に飛び込んできたのが横田卓馬先生によるダンゲロス1969コミカライズ決定の告知だった。

 

何年も前、フラッと寄ったコンビニで立ち読みしていたら面白そうな漫画が載っていた。「魔人」という超人的能力者、コミカルな能力名、躍動感に富んだ作画、どれも非常に好みで一目で気に入ったのを今でも覚えている。それがコミカライズ版「戦闘破壊学園ダンゲロス」。その日のうちに原作小説をAmazonで注文した。

 戦闘破壊学園ダンゲロスは一言で纏めるなら「学園能力バトル物」である。「魔人」と呼ばれる能力者たちが存在する世界。多くの魔人が在籍する私立希望崎学園・通称戦闘破壊学園ダンゲロスでは生徒会と番長グループ、二つの魔人組織が対立しながらも膠着状態を続けていた。しかしある事件をきっかけに関係は急激に悪化。学園公認の全面戦争「ダンゲロス・ハルマゲドン」勃発へと発展。容赦無い殺し合い、絡み合う思惑、そして「転校生」……ハルマゲドンの結末とは!?と結末の見えない展開が魅力……なのだがそれだけではない。ダンゲロスの一番の魅力はバカバカしく、下品で、荒唐無稽な能力や人物にある。

例えば鏡子という魔人がいる。メガネに三つ編みのいかにもといった地味な風貌をしているが彼女の本質は全く違う。本文中の説明が特に好きなので引用する。

この “魔人” 鏡子一見するとあどけない容姿だがその実超絶的な性技を備えた人を超えた淫乱ビッチ!! 荒淫において右に出るものなしと言われたビッチ中のビッチ!! ビッチ・オブ・ビッチである!! おそらく宇宙一 セックスが巧い

ここで面白いのは鏡子の性技術は魔人能力によるものではないというところだ。研磨と鍛錬により磨き上げた技術一本で宇宙一のビッチとなった女。一撫でで射精に導くことが可能で時間を掛ければ衰弱死させることすら容易いほどのビッチ。後年には人間国宝に指定されその名前は性行為と同義として辞書に載るほどのビッチ。まさしく本物の人間である。

そんな彼女の能力「ぴちぴちビッチ」は己の持つ鏡の中に半径2キロ以内の任意の場所の映像を映し出し、その鏡の中に映った物質・人物に対し「卑猥な目的」でのみ鏡を通して干渉が可能というもの。先の性技と組み合わせることで範囲内の人物を即座に射精させ無力化させることができる最強の門番なのである。

他の能力者もクセが強い。発火能力とは無効化能力とかそういう一般的能力バトル物で見られるような能力者は皆無で、範囲や条件に妙な制限が付いたり用途がイマイチ不明瞭な魔人ばかりである。こうした能力の応酬、エログロバカな魔人たち、それでありながら御都合主義で無いロジカルな展開がダンゲロスの面白さである。小説版コミックス版共に発売中。戦闘破壊学園ダンゲロスを読め。

 

話を冒頭に戻す。このダンゲロスの続編がダンゲロス1969である。1969年を舞台にした過去編に相当する内容になっているが登場人物はほぼ新規キャラクターなのでこちらから読んでも全く問題無い。それが前回同様に横田卓馬先生によってコミカライズされることになったのである!

コミカライズを担当した横田卓馬先生は天下の少年ジャンプで「背筋をピン!と」「シューダン」と青春部活漫画を二度続けて連載していたので「そっち」の路線で行くのだとばかり思っていた。金玉や精液や女子トイレでオナニーする漫画はもう描いてくれないのかも……と内心寂しく思っていたところにこの朗報である。大いに興奮した。

恥ずかしい話ではあるがこの時点ではダンゲロス1969を未読だったばかりか存在すら知らなかったのだが「馬鹿げていて、笑えて、インパクトがあって、それでいて読み応えのあるような本」、まさしくこれではないかと運命的なものを感じつつ即座にAmazonで購入した。数年の月日の間に紙から電子書籍へと読書形態を移行していたのだが、Amazonを使って購入するところはそのままだったのが可笑しかった。

 

さて件のダンゲロス1969である。今作は学生運動に焦点が当てられていて、東大安田講堂に立てこもる魔人学生とそれを殲滅せんとする魔人公安の戦いとなっている。要は前作と同じく陣営VS陣営の能力バトルの構図である。

今作では何がパワーアップしているか?それはエロ、そしてバカである。前作でもその様子は見られたが、エロは誇張が過ぎると一瞬でバカになる。例えば先述の鏡子。「一撫でで射精させる宇宙一セックスが巧いビッチ」がバカの領域に片足を突っ込んでいることは納得できるかと思う。今作の魔人はさらにレベルアップ。腰までバカに浸かりきった下品っぷりである。

まず魔人公安の神乃太陽。彼はうんこと炎を置換する能力を持っている。うんこが炎になり、炎がうんこになる。一見ただのバカ能力だが侮ることなかれ。学生運動を中心に進むこの小説では学生側の基本武器はゲバ棒、そして火炎瓶である。後者を完全に無力化する防御の要として神乃は八面六臂の活躍を見せるのだ。

その神乃の相棒となるのが同じく魔人公安のゴリラ。通称ゴリさんである。ゴリさんは文字通りゴリラなのでうんこ投げを得意としている。その腕は百発百中。狙った獲物は逃がさない。ゴリさんがうんこを投げつけ、神乃が炎に変える。ゴリさんと組むことで最強の盾は最強の矛に変化するのである。

タイトルに挙げたうんことはもちろんこの二人のことであり、当然ながら常にちんこ丸出しの魔人公安清水一物や女子小学生のおしっこ限定で水操作能力を行使できるアトランティス鈴木などがいる。前回同様ロクな能力者などおらず、登場人物欄を読むだけで人生が豊かになること請け合いである。

 

ではバカ要素をマシマシにしたダンゲロス1969はバカ小説なのか?と言われるかもしれないがそれには大きな声で否と叫びたい。魔人という架空の設定と実在した学生活動を上手く馴染ませて説得力を持たせた活動理念、公的機関であるが故の魔人公安のしがらみ、どちらにも理がある二者の衝突、裏切り、すれ違い、そして月の女王。ふざけているとしか思えない能力が巧みに文脈を作りその応酬は大きなうねりを作りながら物語を進行させていく。学生、公安、勝つのはどちらか。誰が死に、誰が生きるのか。飛び交ううんこと精液。そして恋の行方。社会派小説としての側面も持ち合わせた非常に面白い小説となっている。コミカライズも始まり非常に良いタイミングなので小説漫画共に読んでみてほしい。ダンゲロス1969を読め。

 

ヤングマガジン サード 2018年 Vol.4 [2018年3月6日発売] [雑誌]

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ダンゲロス1969

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戦闘破壊学園ダンゲロス (講談社BOX)